ポッドキャストで海外文学好きを増やしたい。『文学ラジオ空飛び猫たち』がつくる「音声の読書会」のスタイル

インターネットラジオの代表格である「ポッドキャスト」の魅力はどこにあるのか。その配信者であるポッドキャスターへのインタビュー連載「ポッドキャスターに聴く」

第15回は、『文学ラジオ空飛び猫たち』のダイチさんとミエさんに話を伺いました。

ポッドキャストで 海外文学好きを増やしたい。『文学ラジオ空飛び猫たち』がつくる「音声の読書会」のスタイル

音声を通じて海外文学好きを増やしたいと語る『文学ラジオ空飛び猫たち』のふたり。ポッドキャストを始めた経緯や番組制作の裏側について伺いながら、音声メディアの魅力や今後実現したいことを語ってもらいました。

『文学ラジオ空飛び猫たち』が語る音声メディアの魅力

本記事では、『文学ラジオ空飛び猫たち』のダイチさんとミエさんに音声メディアの魅力を伺っていきます。

番組紹介:文学ラジオ空飛び猫たち

『文学ラジオ空飛び猫たち』は、海外文学好きのダイチさんとミエさんが送る文学紹介ポッドキャストです。「いろんな人と語りたい文学作品を紹介しよう」をコンセプトに、お互いの好きな作品を時には熱く、時には愉快にそれぞれの視点で紹介しています。

コロナがきっかけで始めたポッドキャスト

──『文学ラジオ空飛び猫たち』はどのような番組ですか?

ダイチ:現代海外文学を中心とした文学作品を毎回ひとつ取り上げてゆるく紹介しているポッドキャストです。自分たちが惚れ込んだり、色々な人に読んでもらいたい本を、それぞれの視点で紹介しています。

ミエ:私たちは文学のプロではないので、高度な作品解説はしていません。ですが、読み終えたばかりの作品について熱く語り合っているので、リスナーから「読書会を聴いているみたい」と感想をいただくことがあります。

ポッドキャストで 海外文学好きを増やしたい。『文学ラジオ空飛び猫たち』がつくる「音声の読書会」のスタイル
ダイチさん(左)とミエさん(右)

──『文学ラジオ空飛び猫たち』を始めたきっかけはなんですか?

ダイチ:きっかけはコロナのパンデミックです。2020年4月、コロナ禍で様々な活動が制限される中、読書会を主宰していた私と、本がテーマのカフェを運営していたミエがオンラインイベントで出会いました。

お互いに現代海外文学が好きだと分かり、すぐに意気投合しました。当時は私が東京に、ミエが京都に住んでいたので、オンラインで何かできないかと話し合っていました。

ミエ:海外文学について語り合うポッドキャストを始めることになったのはラジオ好きだったダイチからの提案でした。2020年6月に番組を開始しましたが、今振り返ると、パンデミックによって偶然生まれた番組だったなと思います。

──番組はどんな人が聴いていますか?

ミエ:30代以上の方が多いですね。男女比でいうと女性の方がやや多いでしょうか。番組のコンセプト的に当然といえば当然なのですが、海外文学好きの方がよく聴いてくれていますね。現代海外文学にフォーカスしたコンテンツは、ポッドキャストに限らずほとんどないようで、海外文学ファンの方々が重宝してくださっているのかもしれません。

また、これまで海外文学を読んでいなかった方が、ポッドキャストを通じて海外文学に触れてくださることもあります。番組を始めて良かったなと思えます。

ダイチ:海外文学翻訳家や小説家、編集者など出版業界の方々も聴いてくださるようです。まさか業界の方々に認知されているとは思っておらず、海外文学のイベントで翻訳者の方に「ポッドキャスト聴いてます」と声をかけられたときは心の底から驚きました。

ポッドキャストで 海外文学好きを増やしたい。『文学ラジオ空飛び猫たち』がつくる「音声の読書会」のスタイル
番組で紹介した『エジプト人シヌヘ』のオンライン読書会では翻訳者のセルボ貴子氏と版元のみずいろブックスの担当者も参加

海外文学の感動、充実感を音声で届ける

──番組づくりで大事にしていることは何ですか?

ミエ:紹介した作品をリスナーが読みたくなるように話すことです。海外文学は「難しそう」「分かりにくそう」と敬遠されがちなジャンルですが、読みやすくて笑えるポイントがある作品や、日本の読者でも共感できる作品、楽しんだり感動しながら読める作品がたくさんあります。

また、読むのに苦労する骨太なものが多いのも海外文学の特徴で、そうした作品からは心を揺さぶられることが多々あります。そうした海外文学を読んだ時の充実感や何年経っても心に残る感動、忘れられないシーンをリスナーにも届けたいと思って語っています。

──とりあげる作品について意識していることを教えてください。

ミエ:さまざまな国の作品を紹介することは意識しています。アジアでも中国や韓国の作品ばかりではなく、チベットやシンガポール、中東の国の作品なども紹介しています。アフリカのアンゴラや中南米のグアテマラなど、普段はあまり馴染みのない国の作品も紹介したことがあります。

馴染みのない国の作品でも、その国の文化を感じることができるし、どんな場所でも同じような感情を抱くのだなと思ったりして、自分たちの世界が広がっていく感覚があります。

他には、最新刊発売や映像化、賞のノミネートなど、話題性がある作品を取り上げることもあります。特に日本翻訳大賞という翻訳作品のための賞は毎年追っていて、最終候補にノミネートされた作品はできる限り紹介するようにしています。

ポッドキャストで 海外文学好きを増やしたい。『文学ラジオ空飛び猫たち』がつくる「音声の読書会」のスタイル
2024年にはデンマークから来日された『ブリクセン/ディネセンについての小さな本』の著者スーネ・デ・スーザ・シュミット=マスン氏と翻訳者の枇谷玲子氏をインタビューして番組で紹介

──ダイチさんはいかがでしょうか?

ダイチ:ネタバレをするかしないかに気をつけていますね。例えばミステリー要素が強い作品だとネタバレが含まれると読書体験が損なわれるので、ストーリーの後半をぼかしつつ読後感について話したりしています。

ストーリーをどこまで話すかは作品ごとにチューニングが必要で、収録前の打ち合わせで一番時間を割いています。ただ、どうしてもネタバレを気にせず思いきり話したいときは、「ここからは読んだ人だけ聴いてほしい」と注意喚起を入れたうえで熱く語っちゃいます(笑)

──なるほど!

ダイチ:技術的な点でいうと、音質に気をつけています。もともと私たちは音声配信に関する知識がなく、あまり調べずに始めたこともあって、最初の頃のエピソードはかなり音質が悪いです。音声編集は未経験だったので、課題が出ればその都度調べて修正しました。マイク選びにも一度失敗していて、今の音質に安定するまでは時間がかかりましたね。

今でも収録によってはノイズが入りすぎてしまったり、リップノイズやポップノイズが多かったりすることもあり、音声編集の難しさを実感していますが、なるべく良い音質を届けられるよう頑張っています。

ミエ:週1回の配信を続けることも大事にしています。毎週月曜日の朝に配信しているのですが、「月曜の出勤時に聴くのが楽しみ」と話してくださるリスナーもいて、とても励みになります。毎週欠かさず作品紹介をすることは難しいので、番外編というかたちでお便り紹介などを行ったりしていますね。

──番組づくりにあたって参考にした番組はありますか?

ダイチ:番組を始めるときに特に参考にした番組はないのですが、ポッドキャストを始めるきっかけとして大きかったのは『#欲望のX(ex-欲望のSNS)』という番組です。

『文学ラジオ空飛び猫たち』に聴く
引用元:https://open.spotify.com/show/5qsUz7ZpQy3fv4ddh2mOMD

もう更新は止まっているのですが、外資ファームのコンサルタントの田中裕子(ゆうぽる)さんと幻冬舎の設楽悠介さんが色々なテーマで話す番組です。偶然知って聴いてみた2020年当時、ポッドキャストは自分たちで勝手につくることができるんだという衝撃がありました。

他によく聴く番組は、『本の惑星』や『流通空論』、『News Connect』、『ワインの輪』、『月曜トッキンマッシュ』、『桃山商事』などですね。

『文学ラジオ空飛び猫たち』に聴く
引用元:https://podcastranking.jp/

──さまざまなジャンルの番組を聴いているんですね。最近注目している番組はありますか?

ダイチ:最近個人的に熱い番組は劇作家・小説家の本谷有希子さんのポッドキャスト番組『震動』です。リスナーからのお便りをもとにトークを展開するシンプルな番組ですが、本谷さんならではのトークが炸裂していてとても面白いです。

『文学ラジオ空飛び猫たち』に聴く
引用元:https://open.spotify.com/show/6SwhZxMGCEVlvzZhrwZpOz

──初めて『文学ラジオ空飛び猫たち』を聴く方に、おすすめの回はありますか?

ダイチ:村上春樹の『海辺のカフカ』紹介回です。実は『文学ラジオ空飛び猫たち』という番組名も、村上春樹が関わった作品から取っています。それくらいお互い村上春樹が好きなので、思い入れの強い作品紹介回になっています。


ポッドキャストで自分たちの「記録」を残そう

──番組を運営するにあたり、マネタイズの取り組みは行っていますか?

ミエ:マネタイズとしては微々たるものですが、サポーター制度を導入しています。あとは紹介した本をまとめたZINEをブックガイドとして文学フリマなどのイベントで販売していたり、グッズをつくったりしています。イベントはリスナーの方との交流の場になっているので、積極的に参加していますね。

ポッドキャストで 海外文学好きを増やしたい。『文学ラジオ空飛び猫たち』がつくる「音声の読書会」のスタイル
文学フリマでの様子

──今後の目標について教えてください。

ダイチ:地道にコツコツ毎週配信を続けていきたいですね。これまで200冊近く紹介してきましたが、紹介したい本のストックはまだまだあります。

新たに気になった海外文学作品を読むのですが、どれも面白いんですよね。これからも自分たちが出会った面白い作品を紹介し続けて、少しでも海外文学好きが増え、日本の翻訳書籍の市場が活気づけば良いなと思っています。

ミエ:あと、今後は古典や日本文学、海外のヤングアダルト小説、詩など様々な文学作品にも触れて番組の中で紹介したいと思っています。いろいろな切り口から私たちを知ってもらい、最終的に海外文学に興味を持つ人が増えれば嬉しいです。

──最後に、これからポッドキャストを始める人へのアドバイスをお願いします。

ダイチ:私たちは音声で自分たちの読書会を残し続けているようなもので、たまに聴き返すととても新鮮な気持ちになります。自分たちの今を発信し続けると、それがログとして残る。常に更新していると、いつでも過去のあの時の気持ちを振り返ることができる。そういうところがポッドキャストの良いところだと思っています。迷っていたらぜひ始めてみることをオススメします! (私たちで良ければいつでもアドバイスします!)

取材を振り返って

ポッドキャストを通じてどんどんと海外文学好きを増やしている『文学ラジオ空飛び猫たち』。おふたりの海外文学への愛と、ポッドキャストを配信するうえでの様々な工夫について迫ることができる取材でした。

インタビューにあたり、ダイチさん、ミエさんより『文学ラジオ空飛び猫たち』を紹介する音声コメントもいただいています。実際のおふたりの声で番組の魅力が語られていますので、ぜひお聴きください!

文学ラジオ空飛び猫たち

連載「ポッドキャスターに聴く」では、今後もいろいろなポッドキャスターの方々にお話をお聞きしていく予定です。その他の記事も「ポッドキャスターに聴く」の一覧ページからチェックしてみてください。