インターネットラジオの代表格、「ポッドキャスト」の魅力はどこにあるのか。その配信者であるポッドキャスターへのインタビュー連載「ポッドキャスターに聴く」。
第24回は、『秘境ラジオ〜耳で旅気分〜』(以下、秘境ラジオ)のやなぎーさんときじーさんにお話を伺いました。

世界の秘境を自ら車のハンドルを握って駆け巡り、その臨場感を音声で届けるポッドキャスト番組『秘境ラジオ〜耳で旅気分〜』。ポッドキャストを始めた経緯や番組制作の裏側について伺いながら、音声メディアの魅力や今後実現したいことを語ってもらいました。
『秘境ラジオ〜耳で旅気分〜』が語る音声メディアの魅力
本記事では、『秘境ラジオ』のやなぎーさんときじーさんに、ポッドキャストをはじめとする音声メディアの魅力を伺っていきます。
番組紹介:秘境ラジオ〜耳で旅気分〜
『秘境ラジオ』は、秘境が大好きなやなぎーさんときじーさんが届ける旅行系ポッドキャスト番組です。第5回JAPAN PODCAST AWARDSでは、報道・ドキュメンタリー部門において優秀賞を受賞しています。
きっかけはアフリカへの秘境旅
──『秘境ラジオ』はどのような番組ですか?
世界の秘境を実際に旅しながら、絶景や動物、文化、歴史、自然、そして“宙(そら)”の面白さを伝えるポッドキャスト番組です。
ジャングルで一晩に100か所を虫に刺されたり、マイナス40度の凍湖で撮影したり、標高5000mで高山病になったりと、秘境ゆえのトラブルはたくさんあります。熱中症で39℃の高熱になったことも、低体温症で体温が34℃まで下がったこともありますが、どんな時でも配信を続けています。
また、私たちは訪れる国の歴史や文化を心から尊重しており、旅の前には本を10冊以上読むことも多く、学術論文にも目を通すなど、膨大なリサーチを行います。しかし、それは現地で得る「一次情報」をより豊かにするための地図にすぎません。
もちろん、本や論文、あるいはそれをもとにした音声コンテンツでも、世界について学ぶことはできます。難しい情報を分かりやすく届けることにも、大きな価値があると思っています。
ただ、私たちが現地に行くたびに感じるのは、二次情報だけをもとに世界を理解したり、推察したりすることの危うさです。
高名な本や学術書に書かれていることでも、現場に行くと普通に間違っていることがあります。これは比喩ではなく、本当に事実として違うことがあるんです。
たとえば、マイナス30℃では凍るシャボン玉はできないと書かれていても、実際にはできた。マダガスカルの学術書に「バオバブには年輪がない」と書かれていても、現地で見ると年輪がありました。
もちろん、だから本や学術書を信用しないという話ではありません。ただ、本も学術書も、一次情報をもとに書かれている部分は強い一方で、引用・伝聞・推論・一般化が重なった部分には、普通に誤りが混ざることがあります。
そして、それは現地に行って自分の目で確かめないと、なかなか分かりません。
一次情報を得ないまま、情報を要約したり、分かりやすく言い換えたりするだけなら、これからはAIのほうがうまくやってくれる。だったら、そこはAIに任せればいいと思っています。
二次情報を分かりやすく語ることは、未来になればなるほど、もっと上手にできる人や、もっと高度なAIが出てくるかもしれません。でも、一次情報は未来から取れません。
その瞬間の景色、その時代の人の言葉、その場所の匂いや空気、現地で「本に書かれていたことと違う」と気づいた経験は、その場に行った人間にしか残せない。
だから私たちは、情報をきれいに要約することよりも、後世から見ても価値が残る一次情報を、現場から持ち帰ることに意味があると思っています。
そこまで足を伸ばせない人たちにも、私たちが五感で掴み取った絶景や動物、文化、歴史、自然、そして“宙(そら)”の面白さを、まるで一緒に旅をしているような圧倒的な臨場感でお届けしています。

引用元:yanakiji公式サイト(https://yanakiji.com/southamerica-andes/uyuni-salt-flat-3/)
──かなりハードな旅ですね!普段からそういったお仕事をされているのですか?
いえ、実は2人ともITの仕事をしているんです。やなぎーはデザイナーで、きじーはエンジニアです。秘境ではStarlink(衛星通信)を立てて、絶景の中で仕事をしながら旅を続けています。
バックパッカーの旅ももちろんタフですが、私たちの旅の特徴は、世界の秘境を車を相棒に「自走」しながら巡ることです。
漆黒の闇の中で、美しい朝日が昇る瞬間を、遮るもののない絶景の中でじっと待つ。そういう能動的な体験は、自分でハンドルを握り、自分たちの判断で道を選び、どこへでも行ける状態をつくった人間だけの特権だと思っています。
私たちは、そんな「ツアーやバックパッカーの旅では簡単には届かない未知の体験」を求めています。
また「自分たちで見つけた風景や誰もいない場所へ、誰の手も借りずに行く」という楽しさが伝わることも大切にしています。
これまでにアフリカのサバンナで野宿をしたり、カナダでオーロラを体験したり、熱帯雨林のジャングルなど数多くの場所を訪れましたが、事前にしっかり学んでから現地に入り、知識とリアルとの違いを「実体験としての一次情報」として伝えることを重視していますね。

引用元:yanakiji公式サイト(https://yanakiji.com/gallery/)
──どうして番組を始めたのでしょうか?
秘境への強い憧れがあったからです。
やなぎーは、社会人になってからネイチャードキュメンタリーに魅了され、アフリカへ行きたいと考えるようになりました。もともと自然に強い関心があったわけではないのですが、自分でも意外なほど強い衝動を感じたんです。
きじーは、幼少期から海外の国立公園や秘境に触れ、図鑑や星、動物が好きでした。また、もともと家庭で日常的にFMラジオが流れていたため、その影響でラジオや音楽にも強い関心を持っていました。
中高生の頃にはVisionやPerformerというソフトを使って楽曲制作などを行っており、大学生の頃にはageHaや西麻布Yellow、Maniac Loveなどの都内のクラブでDJやオーガナイズをしたりと、音楽に親しんでいました。
Apple Podcast黎明期にDJの友人がポッドキャスト配信を行っていて昔からポッドキャストに親しんでいたこともあり、ポッドキャストを配信することへのハードルも低かったです。
そんな私たち2人が意気投合し、最初の秘境旅としてアフリカを訪れる際に、「この体験を記録として残したい!」と考えて、『秘境ラジオ』を始めました。

引用元:yanakiji公式サイト(https://yanakiji.com/africa/safari/)
──リスナーにはどのような方が多いのでしょうか?
旅好きの方や旅に憧れを持っている方はもちろんですが、仕事や家庭の事情で今は旅に出られない方、かつて旅を楽しんでいた方々も多く聴いてくださっています。
「通勤中や家事をしながら聴いているうちに、いつの間にか秘境にいる気分になっていた」「昔の旅を思い出して懐かしい気持ちになった」という声もいただきます。

引用元:(https://yanakiji.com/gallery/)
意外だったのは、ラジオDJの秀島史香さんのような、音声表現のプロの方々にも聴かれていたことです。現場でしか得られない体験や空気感そのものが評価されたことに、手応えを感じました。
ポッドキャストアワードを受賞した際は、音声環境としては決して万全ではありませんでしたが、それでも内容や体験そのものが評価され、番組の方向性への自信になりました。
『秘境ラジオ』の一次情報へのこだわり
──番組作りにおいて、大事にしていることは何ですか?
現場でしか得られない臨場感とリアルさです。旅番組は、世界遺産の紹介などの情報番組と、現地の様子を伝えるレポート番組に分かれると考えているのですが、私たちはそのどちらか一方ではなく、「行く前に学ぶこと」と「実際に行って体験すること」の両方を重ねる点に、番組の軸を置いています。

引用元:yanakiji公式サイト(https://yanakiji.com/southamerica-andes/laguna-69/)
情報の要約ももちろん大切ですが、それだけでは先の時代に「記録」として残る番組になるのは難しいと感じています。特に今はAIで情報が簡単に整理・再生産できる時代だからこそ、実際にその場に立ち、体験し、感じたことを一次情報として残すことで、長く記録として残る番組にしていきたいですね。
なので、旅をする前にはその地の文化や歴史、野生動物の生態を学んで知識を持ったうえで現場に立つことを大切にしています。現地で起きている出来事や心の動きをそのまま伝えることで、聴く人が一緒に旅をしているように感じてもらえたら嬉しいです。
──なるほど。話す際に気をつけていることはありますか?
必ず自分たちの目で確かめたことを起点に語るように気をつけています。既存の評価や誰かの感想を基準にせず、自分たちが現地で見て、感じたことを伝えるようにしています。
過度にドラマチックに盛ったり、危険を強調しすぎたりしないことも重要だと考えています。現地の人や文化、自然を消費的に扱わず、聴く人が想像で旅を楽しむ余白を残すことも心がけていますね。

引用元:yanakiji公式サイト(https://yanakiji.com/australia/great-barrier-reef-4/)
──番組をつくるにあたって参考にした番組はありますか?
特定の番組を参考にしたというよりは、配信を続ける中で今のスタイルが自然と形作られたという感覚ですね。
ポッドキャストは趣味でよく聴いており、昔から深夜ラジオやJ-WAVEなどのラジオ文化に親しんできましたが、特定の型や構成を意識的に真似しようとは考えていませんでした。しかし、ジャンルを限定せずに様々な音声コンテンツを聴き続けることで、音声表現の距離感やリズム、空気の作り方を意識せず吸収した感覚があります。
旅をしながら収録をするなかで、音声は耳から入る情報だけだからこそ、聴き手の頭の中で情景が描かれ、旅の景色や体験の余白が広がることに気がつきました。その結果、旅の「シズル感」がより強く伝わり、一緒に旅をしているような感覚になっているのだと思います。
──マネタイズの取り組みは行っていますか?
広告やサブスクなどを含めて、明確なマネタイズ施策は今のところ行ってないです。まずは番組の世界観を丁寧に育てることを優先していて、広告がなくても継続できる体制を保つことで、表現の自由度を守りたいと考えています。将来的に何かを紹介する場合でも、番組の文脈や価値観と自然に繋がる形であることが前提ですね。
──初めて聴く人におすすめのエピソードを教えてください。
まずは、ep.458「誰もいない秘境で星空観察!人工衛星の多さにツッコミが止まらない」を聴いてほしいです!
あと、特に反響が大きかったのは、ep.376「ゴビ砂漠で迷子に!!!GPSも人も頼れない…散々だった夜」です。現場の緊張感が伝わると思います。
「今この瞬間にしか存在しない世界」を伝え続けたい
──今後の目標はありますか?
失われていくかもしれない「今この瞬間にしか存在しない世界」を音声で残し、1人でも多くの人に伝えていきたいです。
数十年前と比べると、旅は驚くほど身軽になりました。今は世界中の多くの場所にアクセスできるようになり、「伝説の場所」のようなものは、もう残っていないようにも見えます。
でも、まだ紹介されていない美しい場所や行ってみて初めて価値がわかる景色が、確実に残っています。
例えば、昨年訪れたモンゴルのツァガーン・スワルガで見た朝日。Googleマップでも正確なルートが出ないため、GPSを頼りにオフロードを進みました。人の気配がまったくない中で見た朝日は、言葉にできないほど美しかったです。

引用元:yanakiji公式サイト(https://yanakiji.com/mongolia/go-to-gobi/)
一方で、自然は日々変化するため、失われていくものも多い。そのような「今しか見られない風景」を伝え続けたいです。旅に出られない人にとっても、世界はまだ広く、美しい場所があると知ることが生きる糧になるような、そんな番組であり続けたいですね。
──最後に、これからポッドキャストを始める人へのアドバイスをお願いします!
数字や評価を気にしすぎず、自分が本当に楽しいと思えるやり方で続けることが大切だと思います。音声メディアには温かいファンが多く、昔ながらのストーブのような温もりがあります。
ポッドキャストは他のメディアと違い、声だけで届けるという点で特殊です。肉声だからこそ、パーソナリティとリスナーの距離が自然と近くなり、親近感が生まれやすいと感じています。
最初からうまく話そうとしたり、完成度を求めすぎたりしなくていいと思います。無理に飾ったり背伸びをするのではなく、自分らしい温度感で話せば、その空気は必ずリスナーに伝わります。楽しみながら続けることが、結果的に一番の近道なんじゃないかと思います。
編集後記
「旅に出られない人の生きる糧に」という言葉が印象的でした。調べて、体験して、伝えるという過程への徹底したこだわりが、『秘境ラジオ』の魅力につながっているのだと思いました。
秘境ラジオ〜耳で旅気分〜

連載「ポッドキャスターに聴く」では、今後もいろいろなポッドキャスターの方々にお話をお聞きしていく予定です。その他の記事も「ポッドキャスターに聴く」の一覧ページからチェックしてみてください。


