法務省は8月、「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会取りまとめ報告書―生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針―」を公表しました。
生成AIによる肖像や声の無断利用について、パブリシティ権などの侵害が成立するかを、現行法や判例法理に基づいて整理したものです。

法務省が肖像や声の無断利用に関する指針を公表した背景
法務省民事局は、生成AIの普及などに伴い、肖像や声の無断利用が深刻化しているとの指摘を受け、「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」を設けました。
特定の声優に似た声で歌唱や文章の朗読を行う音声や、俳優の肖像を模した動画などを想定し、現行法の下でどのような権利侵害が成立し得るかを検討しました。
検討会は東京大学大学院の田村善之教授を座長とし、知的財産法や民法の専門家、実務家らで構成されています。4月から7月にかけて計5回の会議を開き、その議論をまとめた報告書が8月に公表されました。
AIで生成した声とパブリシティ権侵害の判断
報告書は、パブリシティ権を、人の氏名や肖像などが持つ顧客吸引力を排他的に利用する権利として整理しています。保護対象となる「肖像等」には声も含まれます。
AIで生成した音声が特定の人物の声を利用したものといえるかは、声質の類似性だけで決まるわけではありません。音声に付された情報や公開時の文脈なども踏まえ、その人物を識別できるかが検討されます。
その上で、音声そのものを鑑賞対象として商品化する、商品やサービスの差別化に利用する、広告に利用するといった態様について、声の顧客吸引力を利用することを専ら目的としているかが問題となります。
また、声をみだりに利用されない権利についても、本人の社会的地位や利用目的、利用の態様などを踏まえ、不法行為が成立するかが検討されます。
AI生成音声の配信やサービス提供で問われる責任
報告書では、声優や歌手の声を生成AIで再現した音源を、本人に無断でSNSなどに公開する想定事例も扱っています。広告収入を得るような利用では、本人を識別できるかや音声の使い方などに応じて、パブリシティ権侵害が成立し得ます。
直接の収益がない場合でも、無断利用が問題にならないとは限りません。利用の態様によっては、パブリシティ権や声をみだりに利用されない権利の侵害が検討されます。
権利侵害が認められた場合、使用料相当額などを踏まえた損害賠償や、侵害行為の差止めが認められる場合があります。また、生成AIモデルやサービスの提供行為についても、その提供方法や訴求内容によっては、パブリシティ権侵害が問題となり得ます。
パブリシティ権とは
人の氏名や肖像などが持つ顧客吸引力を排他的に利用する権利です。人格権に由来する権利の一内容とされます。氏名や肖像などを商品に使用したり、商品・サービスの差別化や広告に利用したりする行為について、その顧客吸引力を利用することを専ら目的としているかが問題となります。
参照元:法務省「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」、経済産業省「第30回 産業構造審議会 知的財産分科会 不正競争防止小委員会」



声だけじゃなく文脈まで見るの、AI時代の「似てる」判定は難しいぞ。